ISOの内部監査とは?目的や流れ、成果を出すためのポイントまで専門家が徹底解説
投稿日:2026年6月1日 最終更新日:2026年6月1日

ISOの導入や運用を検討する中で、避けて通れないのが「内部監査」です。
しかし、初めてISOに触れる方にとっては、具体的に何をすればいいのか、何のために行うのか疑問に思うことも多いでしょう。
今回は、ISO内部監査の基本的な目的や具体的な流れ、成功させるポイントを専門家の視点から分かりやすく解説します。
Contents
ISOの内部監査とは?基礎知識を解説
ISOマネジメントシステム(品質管理のISO 9001、環境管理のISO 14001、情報セキュリティのISO 27001など)を運用する上で、内部監査は非常に重要なプロセスとして位置づけられています。
まずは、内部監査とはどのようなものなのか、その基本的な定義と、よく混同されがちな外部審査との違いについて詳しく見ていきましょう。
内部監査の定義
内部監査とは、組織が自ら定めたマニュアルやルール、そしてISO規格の要求事項が、日々の業務の中で正しく守られているかどうかを、自分たち自身で確認・評価する活動のことです。
自社内のスタッフから選ばれた「内部監査員」が、客観的な視点で各部署の業務をチェックします。
これは単なる「ミスや違反の摘発」ではなく、組織の業務をより良くするための「健康診断」のような役割を持っています。
自社の健康状態を定期的にチェックし、病気になる前に予防する、あるいは小さな不調のうちに対処するための仕組みが内部監査です。
自社でPDCAサイクルを回し、業務の質を維持・向上させるためには欠かせないプロセスです。
外部審査(第三者審査)との違い
ISOを導入・維持する際、認証機関による審査を受ける必要があります。
これが「外部審査(第三者審査)」です。
内部監査と外部審査は、どちらもISOの基準に照らし合わせてチェックするという点では似ていますが、実施する主体や目的に大きな違いがあります。
外部審査は、独立した第三者である認証機関の審査員が、その企業がISO規格を満たしているかを客観的に評価し、認証を与えるかどうか、または維持させるかどうかを判断するために行われます。
年に1回、あるいは数年に1回の頻度で実施されるのが一般的で、一種の「試験」のような緊張感があります。
一方で内部監査は、自社の社員(または自社が委託したコンサルタントなど)が主体となって行います。
外部審査が「適合か不適合か(改善か)」を判定する性質を持つのに対し、内部監査は「自社の業務をさらに良くするためにはどうすればいいか」という身内の改善に重きを置いています。
外部審査を受ける前に、自社で事前に問題点を見つけ出して解決しておくという意味でも、内部監査は不可欠なステップとなります。
内部監査がしっかり機能している企業は、外部審査でも高い評価を受ける傾向にあります。
第一者・第二者・第三者監査の分類と位置づけ
監査には、その主体や目的によって3つの分類があります。それぞれの役割を理解することで、内部監査の位置づけがより明確になります。
・ 第一者監査:組織が自ら行う監査です。これがまさに「内部監査」に該当します。自社の自浄作用を高めるためのものです。
・ 第二者監査:顧客や元請け企業が、サプライチェーンの管理や購買先の評価などのために、下請け企業や購入先に対して行う監査です。利害関係がある相手からのチェックとなります。
・ 第三者監査:完全に独立した外部の認証機関が、規格への適合性を公平に証明するために行う監査です。これが「外部審査」に該当します。
ISOの運用においては、このうち「第一者監査(内部監査)」を自社で定期的に実施することがルール(規格の要求事項)として義務付けられています。
これを行っていない場合、外部審査で大きな不適合を指摘され、認証が取り消されたり、取得できなかったりする原因になります。
主要なISO規格における内部監査の要求事項
ISO規格には多くの種類がありますが、現在のISO規格は「マネジメントシステム共通の構造(ハイレベルストラクチャー:HLS)」を採用しているため、内部監査に関する基本的な要求事項はどの規格でもほぼ同じです。
具体的には、規格の「第9.2条」に内部監査に関する規定が設けられています。
共通する要求事項(第9.2条)
ISOの条文では、組織はあらかじめ定めた間隔で内部監査を実施しなければならないとされています。
その目的として、マネジメントシステムが以下の状態にあるかどうかの情報を追及することが求められます。
・ 組織自体の要求事項、およびISO規格の要求事項に適合しているか
・ マネジメントシステムが効果的に実施され、維持されているか
また、監査の頻度、方法、責任、計画に関する要求事項、および報告を含む「監査プログラム」を策定し、実施し、維持しなければならないと定められています。
この計画を立てる際には、関連するプロセスの重要性や、組織に影響を及ぼす変更、そして「前回の監査結果」を考慮する必要があります。
規格ごとの特徴と着眼点
共通の枠組みはあるものの、規格の目的によって監査で重視すべきポイント(着眼点)は異なります。代表的な3つの規格について見ていきましょう。
・ ISO 9001(品質マネジメントシステム)
製品やサービスの品質向上、顧客満足の達成が目的です。
内部監査では、設計開発の手順が守られているか、製造現場での検査が正しく行われているか、顧客からのクレームに対する処理や再発防止策が適切か、といった「品質に直結するプロセス」が重点的にチェックされます。
・ ISO 14001(環境マネジメントシステム)
環境負荷の低減や法的遵守が目的です。
内部監査では、工場やオフィスでの廃棄物の分別・管理が適正か、化学物質の取り扱いルールが守られているか、環境関連の法律(大気汚染防止法や水質汚濁防止法など)に違反していないか、といった「環境リスクと遵法性」が主な着眼点となります。
・ ISO 27001(情報セキュリティマネジメントシステム)
情報資産の機密性・完全性・可用性の維持が目的です。
内部監査では、アクセス権限の管理が適切か、パスワードの変更ルールが守られているか、アクセスログの確認が行われているか、テレワーク時のセキュリティ対策は万全か、といった「情報の漏洩や紛失を防ぐ仕組み」が厳しくチェックされます。
内部監査を実施する3つの主な目的
内部監査には、大きく分けて3つの重要な目的があります。
これらを理解せずに「単なる年中行事」や「外部審査のための書類作り」としてこなしてしまうと、形式だけの形骸化した監査になってしまいます。
目的をしっかりと把握し、経営に役立つ意味のある監査にすることが大切です。
1. 規格や社内ルールへの「適合性」の確認
最初の目的は、自社の業務がISO規格の要求事項や、自社で定めたマニュアル、規定、手順書などの社内ルールに「適合」しているかどうかを確認することです。
いわば「ルール通りにやっているか」のチェックです。
どんなに素晴らしいマニュアルを作成しても、現場の社員がそれを知らなかったり、守っていなかったりすれば意味がありません。
また、法律や規制が変わっているにもかかわらず、古い手順のまま業務を行っている可能性もあります。
これらが正しくルール通りに運用されているかを、主観ではなく、客観的な証拠(記録やヒアリングなど)をもとに確認します。
ルールと実態の乖離を見つけ出すことが、適合性確認の第一歩です。
2. 業務プロセスの「有効性」の評価
適合性の確認と同じくらい、あるいはそれ以上に重要なのが「有効性」の評価です。
有効性とは、「そのルールや業務のやり方が、本当に成果や目標の達成につながっているか」という点です。
つまり「このルールは本当に役に立っているか」という視点です。
例えば、ルール通りに書類を何枚も作成し、何人もの承認を得ている(適合している)としても、その手続きのせいで業務が大幅に遅れ、顧客への対応が遅れてしまっているとしたら、そのルールは「有効」とは言えません。
現場の負担が大きすぎて無理が生じていないか、ルールが形骸化してただ作業を増やすだけになっていないか、目標を達成するための手段として機能しているかを評価し、実態に合っていない無駄なルールを見直すきっかけを作ります。
3. 継続的な改善の機会の発見とPDCAの推進
ISOの根本的な思想には「PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)」による継続的な改善があります。
内部監査はこのうちの「C(評価:Check)」を担う非常に重要なパーツです。
内部監査は、問題があるところを見つけて責めるためのものではありません。
むしろ、現場の困りごとや、より効率的に業務を進めるためのヒアリングの場でもあります。
「もっとこうすればミスが減るのではないか」「この手順を簡略化すれば生産性が上がるのではないか」といった、前向きな改善のヒアリングや提案を行うことで、組織全体のパフォーマンスを向上させるきっかけを作ります。
監査によって見つかった課題を「A(改善:Act)」へとつなげることで、企業は絶えず成長していくことができます。
内部監査を行うことで組織が得られる4つのメリット
内部監査を適切に実施することは、単にISOの認証を維持するためだけでなく、企業経営において多くの具体的なメリットをもたらします。
コストや手間の価値がある活動であることを社内に理解してもらうためにも、以下のメリットを認識しておきましょう。
業務の可視化と標準化・効率化が進む
内部監査を定期的に行うことで、各部署の業務プロセスが可視化され、マニュアルと実態のズレが明らかになります。
属人化していた業務(特定のベテラン社員しかやり方を知らない業務など)が標準化され、誰が担当しても同じ品質で業務が行えるようになります。
また、監査の過程で「この承認手続きは本当に必要なのか」「この書類はデジタル化できるのではないか」といった無駄な手順や重複している作業が洗い出されるため、業務の効率化やコスト削減、生産性の向上に直結します。
社員の品質・環境・セキュリティ意識の向上と教育効果
監査員として選ばれた社員は、他部署の業務を見ることで、自社のマネジメントシステムへの理解が格段に深まります。
「自分の部署の仕事が、他部署にどう影響しているか」を大所高所から理解できるようになり、社内全体の視野が広がります。
また、被監査側(監査を受ける側)の社員にとっても、定期的に自分の業務を振り返り、ルールの意味や重要性を再確認する貴重な機会になります。
「なぜこの記録を残さなければならないのか」を説明するプロセスを通じて、品質や環境、情報セキュリティに対する意識が自然と底上げされていきます。
経営課題や潜在的リスクの早期発見・予防処置
現場で発生している小さなトラブルや、重大なミスにつながりかねない「ヒヤリハット」は、日々の忙しさの中で経営層まで届かないことが多々あります。
内部監査は、現場の実態を客観的なレポートとして経営陣へ吸い上げる重要なルートになります。
経営陣は、大きな問題(大規模な不祥事、致命的な顧客クレーム、深刻な情報漏洩、環境汚染など)が発生する前に、リスクを早期に発見して手を打つ(予防処置・是正処置を行う)ことができるようになります。
企業の危機管理・ガバナンス強化において、非常に強力なディフェンスラインとなります。
外部審査(本審査・維持審査)へのスムーズな対応と合格
内部監査で自社の課題や不適合を事前に洗い出し、是正処置(改善)を済ませておくことで、外部審査の場で致命的な指摘を受けるリスクを大幅に減らすことができます。
もし内部監査で問題が見つかっても、外部審査までに「自分たちで発見し、このような対策を取りました」と説明できれば、それは適切な運用が行われている証拠となり、好評価につながります。
内部監査がしっかり機能している企業は、認証機関の審査員からも「自浄作用がある素晴らしい組織」と信頼され、審査自体が非常にスムーズに進行します。
内部監査で指摘される「不適合」の種類と基準
内部監査において、ルールや規格に合致していない状態を発見した際、それを「不適合」と呼びます。
ただし、すべての問題が同じ重さというわけではありません。
一般的に、内部監査や外部審査では、不適合の度合いをいくつかのレベルに分類して管理します。
企業によって表現は異なりますが、一般的な3つの分類を解説します。
重大な不適合(Major Nonconformity)
マネジメントシステムの根幹を揺るがすような、非常に深刻な欠陥やルールの逸脱を指します。
例えば、以下のようなケースが該当します。
・ 規格が要求している必須のプロセス(例:内部監査そのものや、マネジメントレビュー)が全く実施されていない。
・ 法律や規制に明確に違反する状態で業務が継続されている。
・ 同じ軽微な不適合が多数の部署で放置されており、システムとして機能していないと判断される場合。
内部監査で重大な不適合が見つかった場合は、最優先で経営陣に報告し、直ちに組織的な対策を講じる必要があります。
外部審査であれば、これが1つでもあると認証が発行されない、あるいは一時停止となるレベルのものです。
軽微な不適合(Minor Nonconformity)
ルールや規格からの逸脱ではあるものの、システム全体の崩壊には至っておらず、局所逆・一時的なミスであると判断されるものです。
例えば、以下のようなケースです。
・ 特定の書類において、決められた承認印が1箇所だけ漏れていた。
・ 計測機器の定期校正の期限が、うっかり数日間だけ過ぎていた。
・ マニュアルの改訂履歴の記載に一部誤りがあった。
これらは日々の業務の中で起こり得るミスですが、放置すると重大な不適合に発展する可能性があるため、原因を追究して改善(是正処置)を行う必要があります。
観察事項・改善の機会(OFI:Opportunity for Improvement)
現時点ではルールや規格に違反しているわけではない(適合している)ものの、今のやり方のままでは将来的に不適合につながる恐れがある場合や、さらに良くするための余地がある場合に指摘されるものです。
例えば、以下のようなケースです。
・ ルール通りに運用されているが、手順が複雑すぎて担当者の負担が大きく、ミスを誘発しやすい構造になっている。
・ 記録の保管場所が分かりにくく、探すのに時間がかかっている。
これは「不適合」ではないため、必ずしも強制的な是正処置を求めるものではありませんが、現場の業務効率化やリスク予防のための「アドバイス」として非常に有益な情報となります。
ISO内部監査の具体的な流れ・6つの手順
それでは、実際に内部監査がどのように進められるのか、その具体的な流れをステップごとに詳しく解説します。
内部監査は行き当たりばったりで行うのではなく、計画的に手順を踏んで進めることが成功のカギとなります。
一般的な年間の流れを追っていきましょう。
ステップ1:年間内部監査計画の策定
内部監査は、通常1年間のサイクルで見取り図を描きます。これを「年間内部監査計画」と呼びます。
管理責任者や事務局が中心となり、年度の初めなどに作成します。
計画には、いつ、どの部署やプロセスを対象に監査を行うか、どの規格の項目を重点的にチェックするかなどをあらかじめ決定し、社内に周知します。
すべての部署を一度に監査する必要はなく、業務の状況に合わせて時期をずらし、数ヶ月に分けて実施することも可能です。
計画を立てる際のポイントは、トラブルや顧客クレームが多い部署、新しく立ち上がった部署、過去の監査で不適合が多かった部署などの「リスクの高い領域」に対して、監査の頻度を増やしたり、時間を多く配分したりすることです。
一律同じ時間をかけるのではなく、強弱をつけた計画が求められます。
ステップ2:監査チームの編成と客観的な監査員の選定
計画が決まったら、実際に監査を行う「内部監査員」を選定し、チームを編成します。
ここで非常に重要なISOの鉄則があります。それは「監査プロセスの客観性及び独立性の確保」です。
具体的には、「自分が所属している部署や、自分が直接責任を持っている業務を監査してはならない」という原則です。
自作自演のチェックになってしまい、客観的な評価ができなくなるのを防ぐためです。
例えば、営業部の社員が営業部の監査をすることはできません。
営業部の社員が製造部を監査する、あるいは総務部の社員が営業部を監査する、といった形でクロスさせてチームを組みます。
内部監査員には、ISOの規格や社内ルールに関する基礎知識、ヒアリングのスキルが必要となるため、事前にしかるべき社内教育や外部の「内部監査員養成講座」などを受けさせておく必要があります。
ステップ3:個別監査計画の立案と「内部監査チェックリスト」の作成
監査の日程が近づいてきたら、対象となる部署ごとに具体的な「個別監査計画」を立てます。
何時にどの部屋で行うか、誰にヒアリングをするかといった具体的なタイムスケジュールを決め、被監査部署の責任者に事前に通知します。
これにより、現場も業務の調整や必要書類の準備ができるようになります。
同時に、選定された監査員は「内部監査チェックリスト」を作成します。
保存されているマニュアルのどの部分を確認し、何の質問をし、何の記録(エビデンス)を確認するかをまとめた設計図です。
チェックリストをあらかじめ用意しておくことで、当日の聞き忘れや確認漏れを防ぎ、限られた時間の中で効率的かつ一貫性のある監査を進めることができます。
過去の不適合事例などもチェックリストに盛り込んでおくと効果的です。
ステップ4:内部監査の実施(当日のタイムスケジュールと進め方)
監査当日は、一般的に以下のような3つのフェーズで進行します。
・ オープニングミーティング
監査の開始にあたり、監査員と被監査部署の責任者・担当者が集まります。
監査員の自己紹介、監査の目的、範囲、スケジュールの最終確認を行います。
敵対的な場ではなく、会社を良くするための協力的な場であることを確認し、お互いの緊張をほぐす挨拶の場でもあります。
・ 現地監査(ヒアリングと証拠の確認)
作成したチェックリストに沿って、実際の業務手順をヒアリングしたり、過去の書類やシステム内のデータ(記録)を確認したりします。
「マニュアルには手順Aの後に記録を残すと書かれていますが、実際にはどのように進めていますか?」「直近の3件分の記録を見せていただけますか?」といった形で進めます。
思い込みや口頭の証言だけで判断せず、必ず「客観的な証拠(エビデンス)」を目で見て確認することが鉄則です。また、必要に応じて実際の作業現場を観察(現場巡回)することもあります。
・ クロージングミーティング
すべてのヒアリングと確認が終了した後に、その場で確認された結果を速報として被監査部署に伝えます。
良く運用されている点(適合している点や優れた取り組み)を高く評価するとともに、問題があった点(不適合や観察事項)について具体的に説明します。
ここで重要なのは、現場の責任者と「確かにこれはルールから逸脱していますね」という事実認識の合意を得ることです。
一方的に押し付けるのではなく、お互いに納得した上で終了します。
ステップ5:内部監査報告書の作成と経営層への報告
監査当日の全日程が終了した後、監査員は速やかに「内部監査報告書」を作成します。
報告書には、監査の実施概要(日時、対象、監査員名、被監査者名)、適合していた点、速度、そして発見された具体的な不適合の内容や改善の機会を、客観的事実(いつ、誰が、どの書類で、どうだったか)をベースに分かりやすく記載します。
この報告書は、被監査部署だけでなく、最高責任者である経営層(社長や役員など)にも報告されます。
経営層は、この報告書を通じて会社の現在の運用状態、潜在的なリスク、各部署の課題を把握します。
これは、後に経営層がマネジメントシステム全体を見直す「マネジメントレビュー」の非常に重要なインプットデータとなります。
ステップ6:不適合に対する是正処置(原因分析・再発防止策)とフォローアップ
監査で「不適合」と指摘された部署は、それを指摘されたまま放置してはいけません。不適合に対する「是正処置」を行う義務があります。
ここで重要なのは、是正処置とは単に間違っていた部分をその場で直す(修正する)だけではないということです。
例えば、「書類に承認印が漏れていた」という指摘に対し、その場でハンコを押すのは単なる「修正」です。
是正処置とは、「なぜ承認印が漏れてしまったのか」という根本的な原因を追究し、二度と同じ問題が起きないような「再発防止策」を講じることです。
「忙しくて忘れた」で終わらせず、「忘れないためのチェック機能をシステムに入れる」「ワークフローを見直す」といった仕組みの改善を行います。
被監査部署は、立てた是正処置計画に沿って対策を実施します。
そして一定期間が経過した後、監査チームや事務局は、その逆是正処置が本当に計画通りに実施され、かつ効果を発揮しているか(再発していないか)を確認します。
これを「フォローアップ」と呼び、フォローアップによって効果が確認されて初めて、一つの内部監査のサイクルが完全に終了します。
【実践】内部監査チェックリストの具体的な質問例
内部監査をよりイメージしやすくするために、監査当日にどのような質問が行われるのか、具体的な質問例を対象者・部門別に紹介します。
これらを参考に自社のチェックリストをブラッシュアップしてみてください。
トップマネジメント(経営陣・役員)への質問例
経営陣への監査では、方針の浸透度やリソースの適切性が主なテーマとなります。
※経営陣への監査は必須ではありませんが、多くの審査機関が推奨しています。
・ 今年度の品質(環境・セキュリティ)方針は、どのような経営環境の変化を考慮して策定されましたか?
・ 設定された目標の達成状況について、どのように定期的な進捗確認を行っていますか?
・ 現在のマネジメントシステムを運用する上で、経営資源(人材、設備、予算など)は十分に足りていますか?課題はありますか?
一般業務部門(営業・製造・購買・開発など)への質問例
現場への監査では、日常業務の手順とマニュアルの整合性、記録の管理がテーマとなります。
・ 顧客からの注文内容(仕様や納期など)に変更があった場合、関係部署へどのように連絡し、間違いを防いでいますか?その際の最新の記録を見せてください。
・ 業務で使用しているこの機械(または測定器)は、定期的な点検や校正が行われていますか?点検の記録と、合格を示すラベルが貼られているか確認させてください。
・ 万が一、作業中に不良品(不適合品)が発生してしまった場合、他の正常な製品と混ざらないようにするために、どのような識別や隔離を行っていますか?
・ 購入先(サプライヤー)の選定や定期的な評価は、どのような基準で行っていますか?直近で評価した実績のデータを見せてください。
総務・人事部門(共通支援部門)への質問例
バックオフィスへの監査では、社員の教育訓練や文書の管理状態がテーマとなります。
・ 今年度実施した新入社員(または異動者)向けのISO教育の計画と、実際に実施した際の受講実績、および教育の効果をどのように評価したか記録を見せてください。
・ 社内で使用されている各種マニュアルや規定類は、最新の版(バージョン)が現場に配布されていますか?古いマニュアルが誤って使われないように、どのようなコントロールをしていますか?
・ 各部署から提出される業務記録(帳票やデータ)の保管期間と、廃棄のルールはどのように定められ、守られていますか?
成果を出し会社を成長させる内部監査にするためのポイント
内部監査は、やり方次第で「形式だけの面倒な作業」にもなれば、「会社の問題点をあぶり出し、成長を加速させる強力なツール」にもなります。
形骸化を防ぎ、真に成果を出すための重要な3つのポイントを解説します。
「犯人探し(非難)」ではなく「仕組みの課題探し」を徹底する
内部監査で最も陥りがちであり、最も避けるべき失敗は、監査員が「警察官」や「検察官」のようになってしまい、現場のミスや担当者の落ち度を厳しく追及・非難することです。
これをしてしまうと、現場の社員は防衛本能から「ミスを隠す」「嘘をつく」「書類を改ざんする」ようになり、会社の本当の課題が隠蔽されてしまいます。
内部監査の目的は、人を責めることではなく、仕組み(システムやマニュアル)の悪さを探すことです。
「なぜそのミスが起きてしまうのか」「マニュアルの表現が分かりにくいのではないか」「手順が今の業務量に対して現実的ではないのではないか」という視点を常に持ち、現場の担当者と一緒に「仕組みをどう直せば楽に、ミスなく仕事ができるか」を考えるスタンスを徹底してください。
内部監査員のスキルアップとローテーション
内部監査の質は、監査を行う監査員のスキルに100%左右されます。
規格の条文を丸暗記しているだけでは、良い監査はできません。
相手に緊張感を与えず、リラックスした状態から本音や実態を引き出す「ヒアリング能力」、見せられた記録の矛盾やリスクを見抜く「洞察力」、精度、そして問題の本質を論理的に整理して説明する「文章力・表現力」が求められます。
定期的に外部の専門家による研修を活用したり、社内で優秀な監査員の監査に同行させてOJTを行ったりして、監査員のスキルアップに投資することが重要です。
また、特定のメンバーに監査員を固定しすぎると、視点が凝り固まってしまいます。
定期的に新しいメンバーを監査員に登用し、組織内に新鮮な風を吹き込むローテーションの仕組みを作ることも有効です。
内部監査員の研修や講師の派遣は弊社でも行っています。ぜひお問い合わせください!
経営陣(トップマネジメント)の積極的な関与とコミットメント
内部監査が形骸化する最大の原因は、経営陣が内部監査の結果に興味を持たないことです。
監査員が苦労して報告書を提出しても、社長が読まない、改善のための予算や人員を割かないという状態では、監査員も現場もモチベーションを失い、「どうせ出しても意味がないから、適当に無難な報告にしておこう」という悪循環に陥ります。
最高責任者が内部監査の重要性を正しく理解し、報告された重大な不適合や経営リスクに対して、リーダーシップを発揮して自ら改善を指示し、リソースを投入する。この姿勢(コミットメント)を見せることこそが、社内のマネジメントシステムを本当に有効に機能させる最大の鍵となります。
内部監査でよくある課題と実践的な解決策
多くの企業が内部監査の運用において直面する、代表的な3つの課題とその具体的な解決のヒントを紹介します。自社で同じような状態が起きていないか振り返ってみてください。
課題1:毎年同じような軽微な指摘ばかりで、監査がマンネリ化している
「書類の記入漏れ」「5S(整理・整頓など)の乱れ」といった、毎年同じような表面的な指摘ばかりが並び、会社の成長につながるような本質的な指摘が出ないというケースです。
【解決策】
監査の「切り口」や「テーマ」を毎年変えることをおすすめします。毎年、マニュアルの1ページ目から順番になぞるような一律の監査をしていると、どうしてもマンネリ化します。
今年は「顧客クレームが発生した際の、原因究明から対策展開までのスピード感」を徹底的に深掘りする、来年は「新入社員や異動者に対する教育訓練が、本当に現場での独り立ちに有効に機能しているか」を重点的に見るといったように、その時々の会社の経営課題や不安要素に合わせてテーマを設定してみましょう。
現場からも生々しい課題が出やすくなり、意味のある監査に生まれ変わります。
課題2:社内の人間関係(上下関係・部署間の遠慮)のせいで、厳しい指摘がしにくい
同じ社内の人間同士であるため、「他部署の先輩や上司の部署に対して、ダメ出しをしにくい」「あまり細かい指摘をすると、後で社内の人間関係がギクシャクするのが嫌だ」という心理が働き、監査が甘くなってしまうケースです。
【解決策】
まず、監査の基準を個人の感情や主観ではなく、あくまで「客観的な事実とあらかじめ決めたルール」に置くことを社内で徹底します。
「私はこう思う」ではなく、「ルールには〇〇とありますが、事実は××となっています」という事実ベースでの会話に終始すれば、感情論を排除できます。
また、どうしても社内での監査が難しい場合や、より客観的で高度な視点での指摘が欲しい場合は、外部の専門家(コンサルタントなど)を「外部の目」として内部監査員に指定する、あるいは監査の立ち会いやアドバイスを依頼するという方法も非常に有効な解決策となります。
課題3:内部監査員をやる時間がない・通常業務が圧迫されている
内部監査員に選ばれた社員が、自分の通常業務(営業、製造、開発など)で手一杯であり、内部監査の計画、チェックリスト作成、当日の監査、報告書作成といった膨大な作業が大きな負担になり、不満が溜まっているケースです。
【解決策】
ISOの事務局が、監査員の負担を極力減らすためのサポートを行うことが大切です。
例えば、共通で使えるチェックリストの雛形を事前に用意しておく、報告書のフォーマットを簡素化する、といった工夫です。
また、マニュアルや手順書そのものが複雑すぎて監査に時間がかかっている場合は、ISOの仕組み自体をスリム化・簡素化する必要があります。
あまりにも自社での負担が大きい場合は、コンサルタントに内部監査の事務局業務や監査実務をアウトソーシング(委託)することで、社員は本業と最終的な意思決定に集中できるようになり、業務の圧迫を解決できます。
ISOの導入・運用・内部監査の効率化なら「ISOコム」にお任せください
ISOの内部監査は、会社の成長、業務の効率化、誠実、そして経営リスクの管理において非常に価値のある活動ですが、自社だけで計画を立て、適切な監査員を育成し、効果的な運用を毎年続けるのは、決して簡単なことではありません。
「通常業務が忙しくて内部監査にまで手が回らない」「形骸化してしまって外部審査を通すためだけの作業になっている」「書類が多すぎて何とかしたい」とお悩みの企業様も多くいらっしゃいます。
そのようなときは、ぜひ私たち「ISOコム」にご相談ください。
ISOコムでは、経験豊富なプロのコンサルタントが、貴社のビジネスの実態や規模に合わせた「無駄のない、スリムで本当に役に立つ内部監査」の仕組みづくりをサポートします。
形だけの難しい言葉で書かれたマニュアルを分かりやすく整理し、現場に負担をかけない運用をご提案いたします。
内部監査員の養成研修はもちろん、コンサルタントが監査員として貴社の監査を代行するサービスや、外部審査に向けた最適なアドバイスまで、幅広くお手伝いいたします。
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